先端科学技術研究センター30周年事業 記念講演会
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講演1

水と衛生
紫外線を利用した水処理技術の新展開

小熊 久美子 准教授
共創まちづくり分野

世界では不衛生な水による感染病で年間50万人以上の5歳未満児が下痢症で死亡し、そのほとんどは飲み水が原因です。小熊准教授の専門は「水環境工学」。これまで20カ国以上を訪れ、途上国や山間過疎地でも安全な水を供給する技術を研究しています。 途上国では、水道の蛇口から出た水でも安全とは言い切れません。また、東南アジアでの安全な水へのアクセスを見ると、大都市のシンガポールの100%に対し、ミャンマーは8%と差があり、ベトナムでは都市部と農村部で差があるなど、水アクセスの格差が問題になっています。国連は2015年にSDGs(Sustainable Development Goals)という持続可能な開発目標を設定しました。その中の重要なキーワードが「No ones should be left behind ―― 誰も取り残さない、すべての人にアクセスを」。水環境保全で目指しているのは、水アクセスの大きな不均衡を解消していくことです。

小熊准教授がフォーカスしているのは、紫外線消毒。水感染症の感染源となるウイルス、細菌、原虫の遺伝子に光で傷をつけ、自己増殖能力を奪う方法です。例えば、クリプトスポリジウムという原虫は、殻を持つため従来の消毒では効果がありませんが、紫外線なら殻を通り抜けるので不活性化できます。また、従来の紫外線消毒には水銀紫外線ランプが使われますが、小熊准教授はLEDを使った装置を開発し、水銀ランプとの置き換えとは考えずLEDの強みを活かした使い方を研究しています。具体的には、LEDは水銀を使わないため、万が一壊れても水銀が入り込みません。小サイズでもOK。ウォームアップ不要でON/OFを繰り返しても劣化しにくいというメリットがあります。「本当に使える技術にしたいとき、実験室のデータではどうしようもないことがある。だから、現場に装置を持っていき、住民のみなさんと話しながらやるのが好きなんです」と話す小熊准教授。実際、途上国では屋上貯水槽内で菌が繁殖し、水の衛生を担保できない場所も多いそうです。水槽の管理は自己責任の場合が多く、山間過疎地に住む高齢者には、塩素の補充が極めて大変だという話もあります。超寿命のLED消毒装置なら、もともと使っているポンプの電気で動かすことができます。

 


 

小熊准教授はPoint-Of-Useと言われる「使うその場(蛇口)で処理をするのが合理的」と考え、ここにLEDの紫外線消毒装置に使用を提案。途上国で"沸かさなくても飲める水"を実現することを目標に、研究を重ねています。水処理に必要な電源問題もありますが、「先端研には太陽光パネルを研究する先生がいる。近い将来、電源がないところでも使える装置を開発したい」と今後の抱負を語っていました。

 
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