先端科学技術研究センター30周年事業 記念講演会
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講演3

渋滞と
「急がば回れ」の科学

西成 活裕 教授
数理創発システム分野

『渋滞学』は西成教授が作った研究分野です。渋滞とは、出入りのバランスが崩れること。渋滞と聞くと車をイメージしますが、それは渋滞研究全体の1/3程度で、満員電車などでの人の流れや物流など、さまざまな流れをいかにスムーズにするかを、西成教授は20年以上研究しています。例えば、「忘れっぽい」というのは神経細胞の渋滞。キネシンというタンパク質が渋滞すると忘れっぽくなり、完全にたまってしまった病気の一つがアルツハイマー病です。西成教授は医学部の先生と共同研究を行い論文をまとめました。

西成教授は、研究室にこもる大学教授のイメージとは正反対で、研究室にはほとんどいなく、現場に出て協働します。例えば、街中でよく見かける行列では、先頭の人が列から外れても必ずしもすぐに詰めるわけではなく、ケータイを見ていて出遅れたりします。そういった現実問題に対する理論的な研究はこれまでほとんど行われていませんでしたが、『渋滞学』では「セルオートマトン」という数学を使って一人ひとりの動きを計算します。「セルオートマトン」は昨年度から中学一年生の数学の教科書に掲載され、西成教授が執筆しました。

 

 

渋滞の本質として大事なことの1つに、ある一定の密度以下なら渋滞は自然消滅するが、ある密度以上では必ず渋滞が発生する「臨界密度」があります。西成教授はドイツ滞在中に、なぜアリは一列に並んで進むのに渋滞しないのかを交通量と密度を使って3ヵ月間調べたそうです。アリが渋滞しない理由は"詰めない"からでした。それが、地球上で2億年生きてきたアリの知恵=戦略だったのです。一方、人間はすぐ詰めるので、動けなくなります。「私たちはアリ以下ということですね。このことは私の人生に大きな影響を与えました」と話す西成教授。講演などではいつも「空けましょう」と伝えるそうです。高速道路の臨界密度は1kmあたり25台、車間距離でいえば40mになります。人の臨界密度は1uに2人以上で、目の前の人の足跡を1秒後に踏むタイミングなら渋滞しません。「避難マニュアルにも"1秒ルールで逃げましょう"と書いてほしい」と話していました。ほかにも、地下鉄の駅構内の混雑、建物の出口での渋滞など、共同研究での多くの事例を楽しく説明する西成教授の話に、会場では何度も笑いが起こりました。

2017年5月、西成教授は、日本初の『群集マネジメント研究会』を立ち上げました。JR東日本、セコム、東京メトロ、東京ドーム、成田空港など、人の流れを扱う企業と協働し、科学的に人を誘導する研究をさらに進めていきます。2018年4月19日には公開シンポジウムを開催する予定です。

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